ベンダーロックインは悪いことなのか ~既存ベンダーと長く付き合うためには~

 システムは一度構築すると、切り替えるには大きなリスク・コスト・時間がかかります。そのため、10年、20年と同じシステムを維持しながら活用し続けるのは珍しいことではありません。当然、その間ベンダーも変わらず、いわゆる「既存ベンダー」との関係が長く続くケースが多いのです。

 このような状況は、既存システムを安定稼働させるうえでは自然な営みです。しかし一方で、一般的には「ベンダーロックイン」と呼ばれ、ネガティブに捉えられることも少なくありません。では、本当に悪いことなのでしょうか。

ベンダーロックイン=必ずしも悪ではない

 まず、長年システムを安定して支えてきた日常を正しく評価できているでしょうか。既存ベンダーは「運用コストが高い」「障害が多い」と批判されがちですが、何も問題が起きない状態こそが本来の価値であり、それは見過ごされやすいのです。ベンダロックインされているように見えても、それを上回る価値を提供しているケースも十分考えられます。

 さらに、発注者があえて既存ベンダーを巻き込み、パートナーとして位置づけている場合もあります。確かに形式的にはベンダーロックインですが、実態は戦略的なパートナーシップに近いものです。

健全な関係を維持するために

 重要なのは「悪い意味でのロックイン」に陥っていないかどうかです。そのために、発注者とベンダー双方が次のような取り組みを意識する必要があります。

発注者側
〇既存システムの仕様は自ら理解しておくこと
〇既存ベンダーとは信頼関係を保ちながらも、適度な緊張感を維持すること(馴れ合い過ぎはNG)
〇「既存ベンダーがいなくなるかもしれない」という危機感と、そうなったときの準備をしておくこと
〇外部の有識者や他ベンダーと定期的に情報交換し、既存ベンダーのサービス品質を客観的に評価すること
〇技術的な制約はやむを得なくとも、精神的には依存しないこと

既存ベンダー側
〇顧客の情シス部門にとどまらず、事業全体の変化に敏感であること
〇体制を定期的に見直し、新しい技術や文化を取り入れること(陳腐化・硬直化させない企業努力)
〇既存システムの維持に固執しすぎない、必要な時には勇気を持って既存システム刷新の提案を行うこと

まとめ

 既存ベンダーとの長期的な関係は、必ずしも悪ではありません。大切なのは「依存」ではなく「選択」の結果として関係が続いているかどうかです。互いに健全な関係を意識していれば、それはロックインではなく、むしろ強固なパートナーシップといえるでしょう。